ボツリヌス治療 連載第9回 効果はどれくらい続く?治療を続けるベストなタイミング

脳卒中後の痙縮(けいしゅく)に対してボツリヌス治療を行うと、注射の数日後から効果が現れ始め、約1か月で効果がピークに達します。
しかし、一般的にその効果は3〜4か月で薄れ、再び筋肉のつっぱり(痙縮)が戻ってきてしまいます。

なぜ定期的な治療が必要なのか?

痙縮をそのまま放置すると、関節が完全に固まってしまう「拘縮(こうしゅく)」という状態に進行してしまいます。
拘縮まで進んでしまうと、元の状態に戻すことが非常に難しくなります。

そのため、ボツリヌス治療は3〜4か月に1回のペースで繰り返し行うのが一般的です。
ただし、効果が切れて症状が再発した際、毎回全く同じ状態に戻るとは限りません。
その都度、医師の診察を受けて筋肉の状態を確認し、注射する場所や量を細かく調整しながらベストな状態を維持していくことが大切です。
実際、当院でも5年以上にわたって治療を継続されている患者様は珍しくありません。

一生続けなければならないの?

では、「一度治療を始めたら、一生続けなければならないのか?」と不安に思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

治療とリハビリを根気よく続けることで徐々に良い状態が保てるようになり、注射の間隔が延びていく方がいます。
中には、最終的に注射をしなくても痙縮が起こらなくなり、治療を「卒業」される患者様もいらっしゃいます。

一方で、繰り返し治療を行っていると、まれに体内に「抗体」ができてしまうケースがあります。
これは、体の免疫システムがボツリヌス製剤を「異物(敵)」とみなし、薬の働きを打ち消してしまう状態です。
抗体ができてしまうと、注射をしても十分な効果が得られなくなってしまいます。

従来から使用されている製剤に比べ、近年登場した新しい製剤(ゼオマインなど)は「抗体ができにくいように精製されており、長く続けても効果が落ちにくいのではないか」と期待されています。
ただし、日本ではまだ導入されてからの期間が短いため、長期的なデータは今後さらに蓄積され、解明されていくと思われます。

「効果が蓄積する」ことの思わぬ落とし穴

「効果が蓄積して筋肉が固まらなくなる(治療が不要になる)」ということは、痙縮でお悩みの患者様やご家族にとっては非常に喜ばしいことです。
しかし、他の分野においては、これが必ずしもプラスに働くとは限りません。

例えば、「しわ取り」などの美容目的でボツリヌス治療を受けている場合です。
もし投与量が多すぎて表情が一時的にひきつってしまったとしても、通常は3〜4か月で効果が切れるため元の状態に戻ります。
しかし、短期間で過剰に治療を繰り返しすぎると、効果が蓄積し、表情筋が半永久的に動かしにくくなってしまう(不自然な表情が元に戻らなくなる)リスクがあると言われています。
テレビなどでも、過度な治療により表情が不自然に見えてしまう方をお見かけすることがあるかもしれません。

ボツリヌス治療は「通常3〜4か月で効果が切れる」治療ですが、継続状況によっては「効果が長く残りすぎる(永続する)こと」や、逆に「抗体ができて効かなくなること」があります。
特に美容目的で治療を受けられている方は、こうしたリスクを十分に理解した上で、適切な投与量と間隔を守って治療を継続されることをお勧めします。

渡辺 淳志
筆者プロフィール
【リハビリテーション部長】

渡辺 淳志 WATANABE Atsushi

出身大学: 琉球大学

  • 日本リハビリテーション医学会 リハビリテーション指導医
  • 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
  • 日本脳卒中学会 脳卒中指導医
  • 日本認知症学会 認知症指導医
  • 日本頭痛学会 頭痛専門医
  • 日本ボツリヌス治療学会 認定施注医
  • 医学博士号(甲)
  • 義肢装具等適合判定医
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