ボツリヌス治療 連載第25回 ボツリヌス治療の経験が少ない先生方が知って頂きたいボツリヌス治療の大事なポイント

私は脳神経外科医として10年間勤務した後、リハビリテーション科に転科して一から勉強を重ね、現在はリハビリテーション指導医として活動しています(脳外科医歴10年、リハビリ医歴12年)。

実は、脳外科医時代にもボツリヌス治療(ボトックス治療など)を行っていたのですが、当時は十分な専門指導を受ける機会がなく、インターネットの講義だけで得た知識を頼りに手探りで治療を行っていました。

しかし、リハビリ科に移ってから、こわばり治療(痙縮:けいしゅく)のプロである指導医のもとで3年間学び、自分が過去に行っていたやり方がいかに不十分であったかを痛感しました。

今回は、手足のこわばりに悩む患者様やそのご家族に向けて、ボツリヌス治療でしっかり効果を出すために知っておいていただきたい重要なポイントを、私の経験を踏えて分かりやすくご紹介します。

① 表面だけでなく「奥深くの筋肉」を緩めること

脳卒中の後遺症などで、肘が曲がったまま伸びなくなったり(肘の屈曲)、足先が内側を向いて固まったり(内反尖足)することがあります。

このような場合、注射しやすい表面の筋肉だけを治療しても、症状が十分に改善しないケースが少なくありません。
肘や足のこわばりを根本的に和らげるには、骨に近い「奥深くにある細い筋肉(深部筋)」を狙って治療することがとても重要です。

しかし、奥深くの筋肉は外から見えません。
そこに正確にお薬を届けるためには、以下の専門的な機器が不可欠です。

  • 超音波(エコー)装置:筋肉の深さを画像で確認します。
  • 専用の電気刺激装置(ニュートレーサー):狙った筋肉をピンポイントで特定します。
  • 専用の針(ポール針):安全かつ正確に注射を行います。

「こわばりをしっかり取るには、まず奥深い筋肉から治療する」のが、痙縮治療の大原則です。

② 安全で確実な効果を出すための「濃度の工夫」

ボツリヌス療法のお薬(ボトックスやゼオマインなど)は、生理食塩水で溶かして使います。
お薬の濃度を濃くすると狭い範囲に強く効き、薄くすると広い範囲に優しく効くという性質がありますが、私は常に「一定の使いやすい濃度」に統一して治療を行っています。

濃度を一律に保つことで、薄め方の間違いや投与ミスのリスクをゼロにできます。
この方法でこれまで数多く(延べ1,000回以上)の治療を行ってきましたが、太い筋肉でも細い筋肉でも、狙った場所にしっかりと注射すれば十分に効果が出ています。
効果を強く出したいときは、薬の濃度を変えるのではなく「お薬の量」を適切に調整することで、安全かつ確実な治療を両立しています。

③ 専門の設備が整った「リハビリ専門医」への相談を

ここまでお話しした通り、手足のこわばりを効果的に改善するには、奥深い筋肉を捉える「超音波装置」や「電気刺激装置」「専用の針」が欠かせません。

もし、現在治療を受けているクリニックや病院にこれらの設備がない、あるいは治療を受けてもなかなか効果が実感できないという場合は、痙縮治療の専門であるリハビリテーション科の医師(リハビリ専門医・指導医)にぜひご相談ください。

私の過去の苦い経験からも、適切な技術と設備を備えた医師による治療こそが、患者様の生活の質(QOL)を高めるために重要であると確信しています。
この記事が、手足のこわばりでお悩みの方の参考になれば幸いです。

渡辺 淳志
筆者プロフィール
【リハビリテーション部長】

渡辺 淳志 WATANABE Atsushi

出身大学: 琉球大学

  • 日本リハビリテーション医学会 リハビリテーション指導医
  • 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
  • 日本脳卒中学会 脳卒中指導医
  • 日本認知症学会 認知症指導医
  • 日本頭痛学会 頭痛専門医
  • 日本ボツリヌス治療学会 認定施注医
  • 医学博士号(甲)
  • 義肢装具等適合判定医
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