ボツリヌス治療 連載第20回 目標は具体的に!医師と共有するボツリヌス治療の「治療のゴール」の決め方

ボツリヌス治療は、筋肉のつっぱり(痙縮)を緩める優れた治療ですが、全ての痙縮が治療の対象というわけではありません。

例えば、脳卒中後、足に痙縮が残っていても、そのつっぱりを「支え」にして関節を固定し、安定して歩いている方もいらっしゃいます。
このような方に治療を行うと、関節の安定性が失われ、治療前よりも歩きにくくなってしまうことがあります。

痙縮の強さは「MAS(Modified Ashworth Scale=修正アスワーススケール)」という医学的な指標で、以下の6段階に分類されます。
  • 0:筋緊張の亢進(つっぱり)はない。
  • 1:軽度の筋緊張の亢進がある。
  • 1+:軽度だが明瞭な筋緊張の亢進がある。
  • 2:顕著な筋緊張の亢進がほぼ全可動域でみられる。
  • 3:かなりの筋緊張の亢進がみられ、動かすのが難しい。
  • 4:患部が固まり、動かすことが困難である。

一般的に、ボツリヌス治療の対象となるのは「2」以上であることが多いです。

患者さんやご家族が不便を感じていて治療の適応があったとしても、「痙縮をゼロ(MAS0)にすること」が必ずしも治療のゴールとは限りません。
関節の安定性を保つために、あえてある程度の痙縮を残したほうが、患者さんが動きやすく、ご家族も介護しやすくなるケースがあるからです。

ボツリヌス治療の本当のゴールは、単に筋肉を緩めることではありません。
「何に困っているのか」「痙縮を治して何をしたいのか」という、生活の中での具体的なお悩みや、叶えたい夢を伺うことが治療のスタートラインです。

「再び歩けるようになって孫と散歩したい」「自分一人の力でお風呂に入りたい」。

ささやかでも、患者さんやご家族が幸せを感じられる目標。
そうした小さな幸せを叶えることこそが、ボツリヌス治療の役割だと考えています。

当院のボトックス外来では、患者さんやご家族と「どのような症状を、どのように改善し、何をしたいのか」をしっかりと相談してから治療方針を決定します。

渡辺 淳志
筆者プロフィール
【リハビリテーション部長】

渡辺 淳志 WATANABE Atsushi

出身大学: 琉球大学

  • 日本リハビリテーション医学会 リハビリテーション指導医
  • 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
  • 日本脳卒中学会 脳卒中指導医
  • 日本認知症学会 認知症指導医
  • 日本頭痛学会 頭痛専門医
  • 日本ボツリヌス治療学会 認定施注医
  • 医学博士号(甲)
  • 義肢装具等適合判定医
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