ボツリヌス治療 連載第24回 痙縮を専門とするリハビリ専門医がボツリヌス治療を勧める理由

脳卒中や頭部外傷、脳性麻痺、脊髄損傷などによって脳や脊髄がダメージを受けると、手足や体幹の筋肉が異常にこわばってしまうことがあります。
この状態を痙縮(けいしゅく)と呼びます。

痙縮の治療法には、主に
「飲み薬(内服治療)」
「ボツリヌス治療(注射薬)」
「手術療法(アキレス腱延長術やITB療法など)」
があります。
では、なぜ痙縮を専門とするリハビリ医師が、なかでもボツリヌス治療をおすすめするのでしょうか。
その3つの理由をわかりやすく解説します。

理由①:他の治療法と比べて高い「安全性」

1つ目の理由は、副作用や合併症のリスクが低く、安全性が高いことです。

痙縮を和らげる方法として、筋肉をほぐす飲み薬(筋弛緩薬)を使うことがあります。
全身にこわばりがある脳性麻痺などの患者さんには、ジアゼパムなどの飲み薬が有効な場合もありますが、飲み薬はこわばっている筋肉だけでなく、正常な筋肉まで緩めてしまったり、脳に作用して眠気が出たりする副作用のリスクがあります。
その点、ボツリヌス治療では、正常な筋肉が緩んでしまったり、眠くなったりする副作用は報告されていません

また、最終手段として検討される手術療法は確実な変化をもたらす一方で、麻酔に伴う合併症や術後の感染症などのリスクが一定の確率で発生します。
これに対し、ボツリヌス治療は注射部位の感染が起こることはほとんどなく、局所麻酔を使用する場合も少量であるため、全身への影響はほぼありません
こうした点から、非常に安全性の高い治療と言えます。

理由②:狙った筋肉を狙い通りにほぐす「コントロールのしやすさ」

2つ目の理由は、狙った筋肉を狙った状態まで的確に緩められるという、治療のコントロールの良さです。

飲み薬の場合、効果の個人差が大きく「どの筋肉が、どれくらい緩むか」を細かく調節することは困難です。
しかし、ボツリヌス治療はこわばりの原因となっている筋肉に直接注射するため、狙った部分をピンポイントで柔らかくできます。

もちろんボツリヌス治療にも個人差はあり、初回治療時には
「効きすぎて少し歩きにくくなった」
「思ったほど柔らかくならなかった」
ということも起こり得ます。
しかし、ボツリヌス治療の効果は3〜4か月で自然に切れる(元の状態に戻る)という特徴があります。

「前回は効きすぎたから今回は薬の量を減らす」
「効果が弱かったから次は増やす」
といった微調整ができるため、治療を繰り返すことで、その患者さんに最適な治療計画をオーダーメイドで組み立てられる強みがあります。

理由③:患者さんやご家族の「困りごと」に合わせた治療ができる

3つ目の理由は、患者さんやご家族のニーズ(ご要望)に合わせて柔軟に治療を行える点です。

一般的な医療では「病気を完全に治すこと」を目標に医師が計画を立てますが、ボツリヌス治療のゴールは「痙縮を完全に消し去ること」ではありません

もし痙縮があっても、日常生活で特に困っていなければ、すぐに治療を行う必要はありません。
「手足がこわばって動きにくい」
「体が硬くて着替えやオムツ交換の介助が大変」
といった具体的な困りごとがあり、それを解決するために治療計画を立てるのがボツリヌス治療です。

患者さんやご家族が「今、何に困っているか」に焦点を当てて治療を行うため、治療後の満足度が高いのが特徴です。

まとめ

ボツリヌス治療は「注射による治療」ということもあり、最初は敷居が高く感じられる患者さんやご家族も多いかと思います。

治療を実際に受けるかどうかは、相談してから決めても遅くありません。
まずは痙縮で困っていることや、日常生活での悩みについて、痙縮の専門外来で医師に一度相談してみてはいかがでしょうか。

渡辺 淳志
筆者プロフィール
【リハビリテーション部長】

渡辺 淳志 WATANABE Atsushi

出身大学: 琉球大学

  • 日本リハビリテーション医学会 リハビリテーション指導医
  • 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
  • 日本脳卒中学会 脳卒中指導医
  • 日本認知症学会 認知症指導医
  • 日本頭痛学会 頭痛専門医
  • 日本ボツリヌス治療学会 認定施注医
  • 医学博士号(甲)
  • 義肢装具等適合判定医
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