ボツリヌス治療 連載第22回 最新の知見と竹口病院の取り組み(学会報告など)

医療は日々、目覚ましい勢いで進歩しています。
それは、リハビリテーションの分野、そして筋肉のつっぱりを和らげる「ボツリヌス治療」においても同様です。

「痙縮(けいしゅく)」と従来のボツリヌス治療

脳卒中などの後遺症により、手足の筋肉がこわばって動かしにくくなる状態を「痙縮(けいしゅく)」と呼びます。
このつっぱりをほぐすために広く行われているのが、ボツリヌス治療(注射)です。

かつて、この治療に使えるお薬は「ボトックス」という製品しかありませんでした。
ボトックス注射は非常に高い効果がある一方で、保険適用(1割負担など)や高額療養費制度を利用しても、お薬代そのものが高額で、患者様にとって大きな経済的負担となっていました。

画期的な新薬「ゼオマイン」の登場

そんな中、登場したのが新薬「ゼオマイン」です。

ゼオマインは、従来のボトックスと「効果は同じ」でありながら、「お薬代が約半分」という画期的な特徴を持っています。
これにより、同じ治療を受けながら、患者様の負担を大幅に軽減できるようになりました。

さらに、大きなメリットがもう一つあります。
それは、一度に使えるお薬の量(上限)です。
従来のボトックスは最大「400単位」までしか使えませんでした。
しかし、新薬ゼオマインは、その2倍である最大「800単位」まで使用することが認められています。

項目 従来の薬(ボトックス) 新薬(ゼオマイン)
お薬代 高価 従来の約半分
1回の最大使用量 400単位まで 800単位まで(2倍)
治療できる範囲 片手+片足
(全身の治療は難しい)
両手+両足
(全身の治療が可能)

なぜ「800単位」使えることが重要なのか?

ボツリヌス治療では、片手または片足の治療に約200単位のお薬を使用するのが一般的な目安です。
そのため、これまでの400単位の上限では、片手と片足を治療するだけで上限に達してしまい、両手・両足すべてにつっぱりがある「四肢痙縮(ししけいしゅく)」の患者様には、お薬が足りず全身を十分に治療しきれないという課題がありました。

しかし、ゼオマインで800単位まで使用できれば、両手・両足にそれぞれ200単位ずつ分配し、全身をくまなく治療することが可能になります。

安全性と有効性を自ら立証し、日本全国へ

非常に優れた新薬ですが、登場したばかりの頃は、従来の400単位を超える治療を行った事例が少なく、有効性や安全性が十分に証明されていませんでした。

そこで私は、「ゼオマインを400単位を超えて(最大800単位まで)使用しても安全であること」、そして「使える量が2倍になったことで、これまで十分に治療ができなかった四肢痙縮の患者様に極めて有効であること」を日本全国の医療現場に広めるため、自ら検証を行い、論文として発表いたしました。

執筆した論文

  • 『インコボツリヌストキシンA(ゼオマイン)を使用してA型ボツリヌス製剤800単位で両上下肢に同時使用した脳卒中後四肢痙縮の1例』
    (JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION 31(11) 2022 / 著:渡辺淳志)
  • 『インコボツリヌストキシンA (ゼオマイン®) を使用してA型ボツリヌス製剤を400単位を超えて上下肢に同時使用した脳卒中後四肢痙縮の1例』
    (JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION 31(4) 2022 / 著:渡辺淳志)

また、リハビリテーション秋季総会や日本ボツリヌス治療学会総会などの学術集会においても、ゼオマインの有効性と安全性を広く報告させていただきました。

学会発表の実績

  • 『インコボツリヌストキシンを両上下肢に600単位以上同時使用した四肢痙縮の3例』
    (第6回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会 / 2022年11月5日)
  • 『インコボツリヌストキシンを両上下肢に800単位に同時使用した脳卒中後四肢痙縮の1例』
    (第9回日本ボツリヌス治療学会学術集会 / 2022年9月17日)

患者様により良い治療を届けるために

手足のつっぱり(痙縮)の治療はボツリヌス治療だけでなく、振動療法など、さまざまな新しいデバイスやアプローチが登場しています。

痙縮治療を専門とする「リハビリテーション科専門医・指導医」として、これからも医学の進歩に貢献し、患者様に少しでも質の高い、より良い治療を提供できるよう、日々精進を重ねてまいります。
手足のこわばりや歩きにくさでお悩みの方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

渡辺 淳志
筆者プロフィール
【リハビリテーション部長】

渡辺 淳志 WATANABE Atsushi

出身大学: 琉球大学

  • 日本リハビリテーション医学会 リハビリテーション指導医
  • 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
  • 日本脳卒中学会 脳卒中指導医
  • 日本認知症学会 認知症指導医
  • 日本頭痛学会 頭痛専門医
  • 日本ボツリヌス治療学会 認定施注医
  • 医学博士号(甲)
  • 義肢装具等適合判定医
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